Tier 1 (Exceptional Talent) visa

(注)英国のビザ周りの規則は毎年のように変わります。以下は2017年〜2018年半ばの話なので、ビザ申請をお考えの方は必ず最新の情報に当ってください。

8月1日からバーミンガム大学で勤務することになりましたが、実はバーミンガムフェローのオファーは昨年の6月には頂いており、それは通常であれば昨年の夏か秋には着任できるタイミングでした。にもかかわらず着任が遅れたのは、ビザを今月まで取得できなかったからです。ではなぜビザの取得が遅れたかというと、それには以下のUKVI(UK Visas and Immigration:英国移民局)の2つの規則が関係しています。

  1. 一度Tier 2 (General)ビザが失効すると向こう一年間はTier 2 (General)ビザを申請することはできない(クーリングオフ期間:この文書のp.32を参照)
  2. Tier 2 (General)ビザのスポンサーになる場合、resident labour market testをクリアしなければならない
Tier 2 (General)は一般的な労働ビザに相当するビザで、雇用主にビザ申請者のスポンサーとなってもらうことで、ビザ申請が可能となります。私が昨年まで有していたのはこのTier 2 (General)ビザで、2013年-2015年はバーミンガム大学が、2015年-2017年はケンブリッジ大学がそれぞれスポンサーでした。さて、英国は欧州経済領域(EEA)圏内で、採用にあたってはEEA圏内出身者が優遇されます。日本人などEEA圏外の国籍を持つスタッフがTier 2 (General)ビザで就職する場合、雇用主は「resident labour market test」と呼ばれるものを行う必要があります。これはつまり「EEA圏内には適切な人材がいませんのでEEA圏外から採用します」という証明のようなもので、これを満たしていないと、企業や大学はスポンサーになることができません。但し書類作成を除くとそれほど特別なことを行う必要はなく、この条件は通常は採用プロセスによって充足されます。

さて、私が昨年まで有していたTier 2 (General)ビザは昨年4月下旬に失効しています。そうすると上記1の規則により、今年の4月下旬まではTier 2 (General)ビザを申請することができません。そこで、以下の2つの可能性があると昨年7月の段階で考えました。(A)1年間待って2018年4月下旬以降にTier 2 (General)ビザを再度申請し、2018年6月頃より勤務を開始する、(B)異なるカテゴリーのビザ(Tier 1 (Exceptional Talent)ビザ)を申請し、2017年の夏か秋に勤務を開始する。ただ、バーミンガム大学からのオファーを頂いた直後(2017年7月)にチュービンゲン大学に2017年10月から2018年3月まで半年間滞在できることが決まり、そうであれば上記Aの方が(i)行ってみたかったチュービンゲン大学に行ける、(ii)通るかどうかわからないTier 1 (Exceptional Talent)ビザ(後述)の申請を避けられるという2点から好ましいと判断しました。実はこの辺りのことは可能性の一つとしてバーミンガム大学のフェローシップに応募した時(2017年3月)から頭にあり、そのため早い段階(応募前)で着任時期が柔軟であること(大体いつでもOKであること)を先方に確認していました。

しかし私が把握していなかったのは、resident labour market test(RLMT)の結果は1年間しか有効ではないということです。それの何が問題かと言うと、Birmingham Fellowshipは広く世界中から応募可能であるため、当然その採用プロセスはRLMTを満たすようになっています。しかし、私が応募して内定を頂いたフェローシップは2017年2月-3月くらいに募集されていたものなので、2018年4月にはそこで満たされていたはずのRLMTの効力が切れてしまっており、そのままでは2018年4月下旬以降に行うはずであった私のTier 2 (General)ビザ申請をバーミンガム大学がスポンサーできなくなってしまいます。そこで、昨年7月の予定では、2018年3月頃に再び行う予定であったBirmingham Fellowshipの選考を持って代えることになっていました。つまり、翌回のBirmingham Fellowshipの募集時に、EEA圏内には適切な人材がいなかったので私(日本人)を採用することに書類上はする、ということです。

これで一件落着かと思っていたのですが、今年に入り再び状況が変わります。まず、2月13日にバーミンガム大学の人事部から、「あなたに連絡しようとしているが捕まらない 1のでできるだけ早くこちらに電話して欲しい」というメールを受信し、慌てて翌日電話してみると、「Birmingham Fellowshipのキャンペーン 2は今年の3月には行わないことになったので、Tier 2 (General)ビザではなくTier 1 (Exceptional Talent)ビザを申請して欲しい」とのことでした。

Tier 1 (Exceptional Talent)とは「Exceptional Talent」や「Exceptional Talent (Promise)」のためのビザですが、プレミアリーグでプレーするサッカー選手クラスの人材でなければ取得できないというわけではなく、このドキュメントのp.24辺りを見てみても、「a prestigious UK-based Research Fellowship, or an international Fellowship or advanced research post」があればExceptional Talent (Promise)に当てはまるようです。また、同ドキュメントのp.25にあるように、British Academy Postdoctoral Fellowshipsなど、特定のフェローシップを持っていれば(具体的にはここのp.6を参照)、ほぼ確実にExceptional Talent (Promise)であることは認められる(下記のステージ1はクリアする)ようです。

申請プロセスに関してですが、Tier 1 (Exceptional Talent)ビザに関しては、まずステージ1で(私の場合は)British Academy(から依頼を受けた研究者)が私はExceptional Talent (Promise)だと考えられるか否かを審査し、それに合格すると、ステージ2でTier 1 (Exceptional Talent)ビザ自体をUKVIに申請する、という2段構えになっています 3。ノーベル賞クラスである必要はないものの、Tier 1 (Exceptional Talent)ビザは総じて以前保持していたTier 2 (General)ビザよりもハードルが高く、また、推薦状やなぜ自分がExceptional Talent (Promise)だと考えられるのかを記したもの(7000文字)など、必要書類という面でもTier 2 (General)ビザよりも準備に時間がかかりそうなものが多くあります 4

Tier 1 (Exceptional Talent)ビザのハードルは高いものの、バーミンガム大学が私に申請を勧めるくらいなので、ちゃんとやればTier 1 (Exceptional Talent)ビザも通るのだろうと考えました。2月下旬から必要書類等についてバーミンガム大学の人事部とやり取りし、3月上旬にバーミンガム大学の副学長からの推薦状をもらい 5、その数日後(3月10日)にステージ1の申請を行いました。3月19日にHome Office(内務省。UKVIはその一部)から、British Academyに諮問したとの連絡がありました。そのままうまくいけば当初予定していた6月よりも早く渡英できるはずでしたが、4月9日にリジェクトの通知を受け取ってしまいます。これまでビザ申請に失敗したことがなかったので少しショックでしたが、落ちたものは仕方がありません。通知を読むと推薦状が満たすべき条件 6を満たしていないので不可とあります。申請費456ポンドと審査にかかった1ヶ月間を失ったのは痛いですが、気を取り直して 7元指導教官(兼ケンブリッジでのポスドク時のPI)に新たに推薦状をお願いし、5月11日に再度オンライン上で申請&必要書類を投函しました。5月21日にやはりBritish Academyに諮問したとの連絡があり、6月25日までに結果を知らせてもらえるはずが何の連絡もなかったためこちらから問い合わせたところ 8、6月27日にBritish Academyから私はendorseされた(=ステージ1はクリア)という旨の連絡がUKVIからありました。早速6月29日にTier 1 (Exceptional Talent)ビザ本体の申請を行い、(申請を優先して処理してもらえる)優先ビザサービスに同時に申し込んだこともあり、1週間後の7月6日にはビザを受け取ることができました。

というわけで来月からはTier 1 (Exceptional Talent)ビザで英国に滞在することになるのですが、特にTier 2 (General)ビザと比較して具体的なメリットがあるわけではありません。強いてあげるなら雇用主と紐付いているわけではない(Tier 1 (Exceptional Talent)は申請時にスポンサーは必要ない)ので、転職したり移動したりしてもビザを取り直す必要がなく、またうっかり無職になってしまっても英国に滞在する権利はあるという程度でしょうか。いずれにせよ大学教員として勤めている限りは、Tier 1 (Exceptional Talent)ビザとTier 2 (General)ビザの差はほとんどないのではないかと思います。

Notes:

  1. 当時チュービンゲンにいて、ドイツのSIMカードを使用していたため
  2. 募集のこと。こういうのを「キャンペーン」と呼ぶことを知らず、何度か聞き返してしまった
  3. 但し、ステージ2はUKVIでの審査なので、(以前強制送還されたことがあるなど)余程のことがない限りは大丈夫だと思います
  4. 但しこれらも上述した特定のフェローシップを持っていれば免除されます
  5. この頃ちょうど英国中の大学がストライキで大変だったはずなのに、よくこの辺りは滞りなく進んだなと思います
  6. このドキュメントのp.27の下部にあります
  7. この辺はほかにも色々とあったのですが察してください
  8. 久しぶりに英国を感じました
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バーミンガムフェロー

2018年8月1日より、英国バーミンガム大学でバーミンガムフェローとして勤務することになりました。2013年9月から2年間ほどポスドク研究員として勤務した英語・応用言語学科(ELAL)に戻ることになります。

バーミンガムフェローとはバーミンガム大学が行っているBirmingham Fellowshipのプログラムにより採用される研究員です。Birmingham Fellowshipのプログラムとは以下のようなものです(このページから抜粋)。

Our sector-leading Birmingham Fellowship programme offers five years of protected time for high-quality research, allowing outstanding, high potential, early-career researchers of all ages to establish themselves as rounded academics who will go on to excel in their academic discipline across research, teaching and wider citizenship. All Fellowships come with a permanent academic post at the University.

つまり、「任期なしの職を与えるので、少なくとも最初の5年間は研究に注力しなさい」という、採用される側の視点からは大変ありがたいポジションです。そのプログラム下で雇用されたからには良い研究を行うこと(そしてREFに貢献すること?)が職責ですから、今後はより一層、研究に力を入れるつもりです。

また、私がバーミンガム大学を去ってから3年間ほど経っていますが、その間にELALは多くの新しいスタッフを獲得し、そのほとんどが計量分析に非常に強い方々です。私も言語研究における計量分析には強い関心がありますので、彼等との交流も楽しみにしています。
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